ナポリ サン・カルロ劇場

ナポリサン・カルロ劇場

 ナポリの中心部にあるオペラハウスの前を通りかかると,その夜の幻想交響曲のコンサートチケットが残っていた.4階のボックス席を奮発して,日本から同道したメンバーで出かけることになった.内陣はとにかく立派で,もう雰囲気だけで名演奏が約束されたようなものだった.実際名演だったと思う.2012年夏のことである.
 エクトール・ベルリオーズ作曲「幻想交響曲」作品14a というのだが,長い間の疑問は,この「a」という添字はなにかということだった.まだ未完のベータ版(b)があって,aは完成形なんだろうと思ったりもした.が,この日の後半に演奏されたのが まさに [Lelio作品14b]だったのである.それは音楽というより,一人の白髪の男優がーケストラの前で演じるモノローグであった.イタリア語での身振り手振りを交えた熱演で,声の抑揚,照明,ときおり挟まる幻想のメロディーで十分に楽しめた.幻想交響曲は表題音楽で,終曲では主人公は断頭台に送られていたはずである. [Lelio作品14b]は,主人公の霊が,何年かして若いときの行為を振り返った体をとり,悔やんでいる(?)かのように感じたが,言葉がわからない以上妄想するしかない.続き物ではあるが,14bのレコードがない理由もわかろうというのもだ.演者はToni Servillo というナポリ生れの人気俳優らしい.ベルリオーズの文学的,情熱的,激情的,革命的な側面が垣間見えた演奏会に巡り会えたのは幸運というべきだろう.